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Standing Up 森に消える道/<ヤギ>ゲーム

アメリカ映画 (2013)

『ディスタービア』『イーグル・アイ』の監督として知られるカルーソー監督(脚本兼)が初めて挑戦した少年と少女の淡いラブ・ストーリー。ALA(全米図書館評議会)の最優良図書(ヤングアダルト部門)に選定された原作(1987年)のほぼ忠実な映画化に一応は成功したと言えるかもしれない。ただ、キャストで最初に名前が出てくるチャンドラー・カンタベリーよりも、2番手でTV子役のアナリース・バッソの方に重点を置いた脚本には頷けない。確かに、原作でも、チャンドラー扮するハウイの両親はトルコに発掘に行っていて不在、アナリース扮するローラ(映画ではグレース)の母がもっぱら娘を心配する役回りなので、ローラに中心が移りやすいことは分かるが、画像を抽出しようとして気付いたことは、撮影もローラが中心となっていて、ハウイを正面から捉えた映像が少ない。原作は第三人称だが、ハウイの視点が重視されている。この点は、映画化にあたりもっと注意して欲しかった。俳優としては1枚上のチャンドラーよりも、アナリースが目立ちすぎて邪魔になっている。これが、最初の印象。ただ、その不公平さを除けば、映画自体に強い不満があるわけではなく、むしろ、原作が標題を変えて2度も国内出版されているのに〔「森に消える道」は1992年福武書店からの出版、「<ヤギ>ゲーム」は2002年徳間書店からの出版〕、この映画がなぜ日本で公開されなかったのか不思議なほど、よくできている。少年と少女の逃避行といえば、『リトル・ロマンス』(1979)が最もぴったりな作品だが、この映画も、夏のキャンプで、卑劣な<ヤギ>ゲームのターゲットにされた2人の少年少女が、その恥辱から逃げる中で、お互いに好意を持つようになっていく様子は、とても説得力があり、荒んだ映画が多い中で心に暖かい火を点けてくれる。なお、原作との最大の違いは、ハウイが孤児だという点。なぜ、そのように変えたのだろう? さらに、細かい点だか、逃避行の中で、車から小銭を盗ったり、湖で着替えを盗むためホットドッグに石を入れたり、モーテルにこっそり泊まろうと言い出すのは、原作ではすべて少女の方で、映画とは逆。それでも原作で少年が目立つのは、ギリシャでの神秘的な体験があるから。映画では孤児にしてしまったので逆転させたのだろうが、そのため少年は「夢想派」から「現実派」になってしまった。

トール・パインのサマーキャンプに参加したハウイは、ある夜、仲間に連れられて島にカヌーで漕ぎつける。しかし、それは楽しい夜のイベントではなく、彼自身が<ヤギ>にさせられてしまう。<ヤギ>とは、このキャンプに昔からあった悪しき慣行で、参加者の中で一番人気のない男女1人ずつを選び、全裸にして夜の島に放り出すという悪質なものだった。ハウイは、蚊に襲われて島の中央にある小屋に逃げ込む。そこには、もう1人の<ヤギ>、グレースが既に隠れていた。ハウイは、島から逃げ出さないと 何をされるか分からないと思い、泳いで島を脱出しようと決心する。そして、泳げないグレースを岸辺に漂着していた木の枝につかまらせ、1マイルを泳ぎきって対岸に渡る。翌朝、早朝、湖岸で目覚めた2人は近くにあった無人の別荘に侵入し、何とか着るものを調達し、記録用にカメラをもらって出て行く。盗むのではなく、後で全額弁償するつもりだ。近くの湖水浴場に近づいた時、ハウイは車から公衆電話用に小銭をとり、そのお金でグレースが母にSOSの電話をかける。しかし、母との間で意思疎通が不完全だったグレースは、如何に困っているかをうまく伝えることができない。結局、2日後に迎えに来てくれることにはなったが、それまでは自分で何とかしないといけない。お腹が空いた2人は、コレクトコールで使わなかった小銭で少しだけファーストフードを買う。その時、ハウイが思いついたのは、グレースが、ホットドッグに石が入っていたとクレームをつけている間に、店員の背後にある更衣室の「着替え服預かり」から2人分の子供服を拝借すること。これは、引っ込み思案だったグレースの思わぬ頑張りで成功する。ようやくまともな服装になった2人は、近くの町まで歩いて行く。そこでは、2人の公開捜索が行われていた。びっくりした2人は、たまたま近くにいた別のサマーキャンプのバスに紛れて乗り込み難を逃れる。バスは、20キロほど離れた公設のキャンプ施設に到着する。すぐに逃げようとした2人だったが、キャンプのメンバーではないと最初から見破っていた2人の親切な子が、一晩、それぞれのバンガローで匿ってくれる。翌朝、2人は近くのモーテルに行き、チェックアウトする客から、グレースが上手にキーを受け取り、そのまま部屋に侵入する。こうして、2人は、グレースの母が迎えにくる日の前夜も、森の中で過さずに済んだ。翌日、2人は、待合場所まで歩き始めるが、15キロ以上の距離にくたびれたグレースがヒッチハイクを希望する。しかし、停まってくれたのは保安官代理の車で、しかもその男はかなりの変人で、2人を犯罪者扱いして楽しむ。怖くなった2人は、男が電話をかけている間に、車を奪って逃げるが、道はすぐに通行止め、その先は断崖だった。切羽詰った2人は、断崖から湖に飛び込む。そして、最初に見つけた公衆電話から、グレースが母に電話をかける。グレースは、仲良くなったハウイを、彼の両親がギリシャで発掘中のため戻れないなら、一緒に家まで連れていって欲しいと頼む。しかし、ハウイは実は孤児だった。法律上、一緒に連れていくことはできない。それを悟った2人は、2人だけの最後の時間に切なくも 心温まる会話を交わす。

チャンドラー・カンタベリー(Chandler Canterbury)は、きわめて短時間の間だけ活躍した子役。最初の大役が、既に紹介した『ノウイング』(2009)。その後、1つ端役をはさみ、『アフターライフ』(2009)〔下の写真の左上〕、1つ端役をはさみ、『A Bag of Hammers(人生の軛(くびき))』(2011)〔下の写真の右上〕、『Little Red Wagon(リトル・レッド・ワゴン/ホームレスの子供たちを救おう!)』(2012)の主役〔下の写真の左下〕、『天使が歌う街』(2013)〔下の写真の右下〕、本作品、そして『ザ・ホスト/美しき侵略者』(重要な脇役)で終わる〔最後の主演作 『Black Eyed Dog』(2014)は入手不能〕。1998年12月15日生まれなので、9~13歳にかけて活躍し、以後、普通の生活に戻っている。


あらすじ

湖の真ん中にある島に、真夜中、2隻のカヌーでキャンプの少年たちがやってくる(1枚目の写真)。全員で8名。その中には、<ヤギ>にされるハウイも入っていた。キャンプに参加した少年、少女の中で、一番「ダメな奴」が1人ずつ(本人には知らされずに)選ばれ、島に連れて来られるというのが、このサマーキャンプの悪しき伝統となっていた。ハウイは、年長のブライスに薪を取りに行かされる。ハウイが湖畔の林の中で薪を拾っていて ふと気付くと、湖岸には誰もいない。その時、ブライスがハウイに背中から襲いかかり、羽交い絞めにする(2枚目の写真)。他の2人もやってくる。ブライスは、「おい、全部俺にやらせる気か?」と2人に怒鳴る。ブライスはハウイの着ていたシャツを破り捨て、他の2人が靴、ズボン、パンツのすべてを剥ぎ取る。全裸にされたハウイを前に、ブライスは、「お前、分かってるのか?」と訊く〔<ヤギ>にされたことが〕。別の少年1:「分かってないみたいだ」。ブライス:「行くぞ」。別の少年2:「楽しめよ」。別の少年1:「大丈夫かな?」。ブライス:「構うもんか」。ハウイには、地面に横になったまま、カヌーが去って行くのを見ていることしかできなかった(3枚目の写真)。ハウイは落ちていた眼鏡を拾い、蚊の大群に襲われながら島の奥に逃げて行く。
  

すると、島の中央辺りに掘っ立て小屋が建っていた(1枚目の写真)。蚊と寒さから逃げるには小屋に入るしかない。しかし、ドアには鍵がかかっている。ハウイが必死でガタガタ揺すっていると、中から女の子が「あっちへ行って!」と叫ぶ。「僕、置いてかれて…」。「あっちへ行って」。「できないよ。僕、裸で放り出されたんだ。お願い、入れてよ。蚊に殺されちゃうし、凍えちゃうよ」。走ってきて鍵を開ける音がする。ハウイが中に入ると、片隅で、毛布を被った女の子が泣いている。「君もやられたの?」。「そうよ」。「何か残してかなかった?」。「がらくたの入ったバックパックだけ」。「毛布や服は? 凍えちゃうよ」。「毛布1枚だけ。私が被ってるわ」。ハウイがバックパックを見ると、中にロウソクが入っていた。「きっと、僕らは今年の『笑い者』なんだ。朝になったら、奴ら戻ってきてあざ笑う気だ」〔原作では、2人の全裸の男女を小屋の中に放置した背景には、淫らな行為を期待する仄めかしもあった。別れ際に、1人の少年が「楽しめよ」と言ったのは、その意味だろう〕。ハウイは、中を調べるために、ロウソクに火を点ける(2枚目の写真、右奥に少女)。「(島で)野外パーティでもやるんかと思ってた。僕、バカだった」。そして、「君は何て言われたの?」尋ねる(3枚目の写真)。「ジュリアを置き去りにしようって言われたの。素っ裸で泳ごうって誘って そのまま服を持って逃げちゃおうって」〔この少女の方が、悪巧みに加担するつもりで参加したので、ハウイより罪が重い〕。「ジュリアって、人気のある娘(こ)だろ」。「私、好かれてると思ってたの」。ハウイは、こっそり泳いでキャンプに戻り、朝、平然とした顔で現れてやろう、と提案するが拒否される。そこで、外に行って薪を拾ってきて温まろうと思い、そこら辺にあったものを腰に巻きつけて外に出る。ところが、島には、カヌーがまた近づいてきた。
  

ハウイはすぐに小屋に戻り、「奴らが戻ってくる!」と叫ぶ。「きっと、僕らの写真を撮り、砂を食わせる気なんだ。水辺に行って、隙をねらってカヌーを奪おう」(1枚目の写真)「一緒に来るかい?」。1人で残される方がもっと怖いので少女も付いて行く。「ロウソクは消すわよね?」。「消さない。点いてれば、僕らが中にいると思うだろ」。2人は湖畔まで行くが、カヌーのそばにはいつも誰かがいて盗めない。そこで、ハウイは、「泳ごう」と決意する。「泳げない」。「今になって言うのか? 僕につかまってるだけでいい」。ハウイは岸辺にあった木の枝をつかんで、「来るんだ」と小声で呼びかける(2枚目の写真)。少女は、毛布をまとったまま湖に入って行き、そのまま枝にしがみつく。ハウイはバタ足だけで岸から離れて行く(3枚目の写真)〔アメリカ映画なので、ハウイは腰に布を巻き、少女は毛布をまとっているが、原作では、ハウイは小屋を出た時から全裸、少女も枝につかまってからは毛布を手放している。毛布は水を吸えば重くなるし、紐で縛っていないので拡がれば水に対する大きな抵抗となり、とても進めない。それは、ハウイが腰に巻いている布も同じ。対岸までの距離は1マイル。裸でなければ、到達できるはずはない〕
  

夜明けが訪れ、岸辺に少女が、毛布をきれいに被せられて寝ている。ハウイは、そこから10メートル以上離れた森との境に座り、寒さに震えている(1枚目の写真)〔原作の翻訳本は、「選びぬかれた子どもの本」のシリーズだが、この部分については、こう書かれている。「少年は、少女の体に目を落とした。ひょろ長く白い裸。胸はぺちゃんこで、しわくちゃの乳首だけがふたつ並んでいた。腹の下にはヒットラーのちょび髭みたいな毛が生えている。ということはつまり、こいつのほうがぼくよりちょっと大人だということだ。ぼくのはいっこうに生えてこない。いつもハゲとからかわれていた」(中川千尋訳)〕。しばらくすると、少女が目覚め、目の前に広がる湖を見た後で、振り返ってハウイの方を見る(2枚目の写真)。ハウイは、「この上に小屋がある。歩ける?」と訊く。「ええ」。次のシーンでは、ハウイが小屋のドアを開けようと、石で錠を何度も叩いている(3枚目の写真)。幸いにして錠は壊れ、ハウイは中に入ることができた。そして、「来いよ」と少女を呼ぶ。
  

ハウイは、置いてあった服をはおる(1枚目の写真)。そして、少女にも、着れそうな物を渡してやる。棚に入っていたクラッカーを、「ほら、これ食べろよ。元気になるかも」と箱ごと渡す。水道の栓をひねるが、出て来ない。そこで、湖まで水を汲みに行く。しかし、ハウイがバケツを持って湖に近づくと、沖合いにいたのは1艘の小型のモーターボート。中には3人のキャンプの係員が、双眼鏡で見たり、棒を湖面に入れている。2人が島の小屋から消えたことは、昨夜の段階で分かっていた。明るくなってから島中を捜しても発見できなかったことから、心配になって湖を調べていたのだ。それを見たハウイは(2枚目の写真)、すぐに小屋に戻り、「どこか他にいかないと」と少女に言う。「どこに?」。「さあ。ここじゃないところ」〔原作でのハウイは、「消えちゃったらいいなと思うよ。やつらがどんなにさがしても、見つからないんだ。いったい何が起きたんだろうってふしぎに思うんだけど、ぜったいわかりゃしないっての、いいよな」と言う。この方が、彼らしさが出ていて面白い〕。ハウイは、外に出て行ってもおかしくないように、ダブダブの服をナイフで短くする〔原作では、少女が切る〕。少女は、「電話のあるトコがいい。ママに電話しないと」と言う。「分かった、電話を見つけよう」。「あんたも、電話しなくちゃいけないでしょ」。「今は、ギリシャのどこかにいるんだ」。「ギリシャで何してるの?」。「考古学者なんだ。そこで働いてる」〔原作では、トルコ。ギリシャは、かつて父に連れて行ってもらった場所〕。「なぜ、一緒に行かなかったの?」。「この夏、ここで、同じ年頃の友だちを作って欲しかったのさ」。「ママも同じことを言ってた」。「ママが迎えに来たら、あなたを親戚のトコにでも連れて行ってくれるわ」〔原作では、「あんたのパパとママがもどるまで、うちにいたら」ともっと積極的〕。ハウイは、そんな話には興味なく、「全部、弁償しないと。シャツとかパンツとか」と言い始める(3枚目の写真)。
  

そして、置いてあった小型カメラを少女に渡しながら(1枚目の写真、矢印)、「リストを作って、ここに戻って来た時、なぜ取ったか説明しないと」と言う〔原作には、カメラは出て来ない〕。2人は小屋から出て行くが、ある程度離れると、ハウイは小屋をバックに少女の写真を撮る(2枚目の写真)〔何かを「借りた」場所を、すべて記録する〕。3枚目の写真は、映画のラストで紹介される「逃避行中に撮影した写真」の中の最初の1枚。下には、「最初に入った家」と書かれている。
  

2人は、裸足のまま 森の中の小径を歩き続ける〔原作によれば、別荘地帯なので、小径が整備されている〕。すると、湖畔でティーンエイジャーたちが騒いでいるところに出た。何台も車が停まっている。ハウイは、横にあった車からお金を取る。少女:「何してるの?」。「行くぞ」(1枚目の写真)。「何したの? それって、盗みじゃない。返しなさいよ」。「君が返してこいよ。僕たちお金が要るんだ。後で返せばいい。ナンバープレートを覚えとこう」。そう言ってハウイは、また写真を撮る(2枚目の写真)。盗ったお金は僅か1.8ドル。「返すの?」。「1セント残さず」。〔原作では、少女が、小型トラックの窓から手を突っ込んで小銭を取る。「何やったの? 泥棒じゃないか。返してこいよ」。「あんた返してきて」。ここで少女が電話をかけるのに必要だという。「わかったよ。ぼくがばかだった。ね、もういいだろう」。原作には、どこからお金を取ったかも書かれている。「どうして金のあるとこ知ってたの?」。「通行料金とかのおつりをダッシュボードに入れっぱなしにしとく人がいるってこと思い出したの」。少女の方が、世渡りに長けていて、少年は晩熟(おくて)だという設定だ。映画では、少年は、難局にあたって男らしさを発揮して先導し、少女は心配性。立場は逆転し、性格付けも微妙に違っている〕。その先は砂浜が拡がっていて、家族連れもいっぱいいる。そこで公衆電話を見つけた少女は、すぐに母の会社に電話をかける。少女の母は、映画の方がエリートで、原作の方は平社員。少女は母に電話したものの、<ヤギ>にされて逃走中などとは一切伝えず、家に帰りたいとしか言わない(3枚目の写真、矢印はハウイ)。これでは、母も緊急性が高いとは想像できない。母が迎えに来ると言ってくれないので、少女は、「私、ホントに困ってるの〔tough situation〕」と泣きながら言う。そこで、母は、2日後の土曜に行くと約束し、「辛い時〔tough time〕はすぐに終わるわ。タフな人間〔tough people〕なら乗り切れる」と激励して電話を切る。母には、その直後、サマーキャンプの代表者から電話が入る。順番が逆だったら、母はもっと真剣に対応していたであろう。
  

電話を終えた少女は、「土曜まで来られないって」と報告する。「何されたか、話さなかったのか?」。「ママとはうまくコミュニケートできてないの。タフになれって。やってみる」。「幾ら残ってる?」。「コレクトコールでかけたから全額戻ってきたわ〔quarter back〕」。お腹が減った2人は、日本流に言えば「海の家」でホットドッグ1個とポテトチップ1袋を買う。その際、決めるのに時間がかかったので、販売員からは「ヒッピーのガキめ」と文句を言われ、店の反対側で営業している「着替え服の一時預かり」の方を先を優先されてしまった〔奥に更衣室もある〕。ブランコに座って食べていたハウイは、「新しい服、欲しいだろ?」と少女に訊く。「どうやって?」。「あの店の無礼な男、1人で食べ物を売って、着替え服も預かってる。君が 奴を引き留めておいてくれたら、僕が 服のカゴを2つ拝借するよ」(1枚目の写真)。そして、「幾ら残ってる?」と尋ねる。残金はわずか16セント。これでは何も買えない。そこで、ハウイは、足元に落ちていた小さな石のかけらを拾い、残っていたホットドッグのソーセージの中に押し込む〔原作では、ハウイは、「なんか買うふりだけできる?」と少女に訊き、彼女は、コールタールのかけらを拾い、それをソーセージにこすりつける〕。そして、実行。少女は、石が入っていたと文句を言うが、店員は、嘘だと知っているので全く取り合わない〔原作によれば、同じようなことをする子供が結構いる〕。それでも少女はねばる。店員の背後では、中に忍び込んだハウイが男の子と女の子の服の入ったカゴを選び出している(2枚目の写真)。そして、少女が頑張って文句を言い続けているうちに、まんまと立ち去る(3枚目の写真、矢印はハウイ、如何に際どいかがよく分かる)。ハウイは男子用の更衣室で着替えるが、その時、ポケットにメモ帳が入っているのを見つける〔借用した物を、そこに書き留めることにする〕
  

着替えを先に終えたハウイが待っていると(1枚目の写真)、少女が着替えて現れる。ごく普通の服装だ〔原作では、ピンクのカーディガンは同じだが、その下の白のシャツに “Milk Bar” とプリントされている→大きなおっぱいという意味もあり、後でそれが問題になる〕。「他のみんなみたいに見える?」。「残念だけど、見えちゃうよ」。ハウイは、そう言って、少女の写真を撮る(2枚目の写真)。湖岸から離れて林の中を歩きながら、ハウイは、「下着も履いた?」と尋ねる。「履かなかったの?」。「触ったら、まだ暖かかったんだ。とても履けないよ」(3枚目の写真)。「私のは、すごくきれいだった」。そして、ニヤリと笑うとズボンをちょっぴり下げてピンクのビキニを見せる。「ばか、やめろよ」と言うハウイに、少女がわざとぶつかる。それ以後、2人は楽しそう歩いて行く。
  

2人は賑やかな町の歩道を歩いている。話しているのは、やれそうもない復讐の話。少女:「あいつらの靴を床に貼り付けてやったら?」。ハウイ:「奴らの下着を奪って、旗竿に縛り付けてやろう」。しかし、2人の会話は、キャンプの女性指導員と保安官の姿を見たことで中断する(1枚目の写真)。彼らは、2人の顔写真のついたビラを配ろうとしていた。ハウイは見られないように下を向き、「どうしよう?」と少女に問いかける。「私、まだ戻りたくない」。「分かった。ここから逃げよう」。その時、ハウイの目に入ったのは、目の前でちょうど出発しようとしていた他のサマーキャンプの一行。2人は、その列にまぎれてバスに乗り込む(2枚目の写真)〔原作では「中学生と高校生がいっしょくたになった」「ほとんど黒人」「公的キャンプ」と書かれている〕。2人は、空いていた後部座席に座る〔そこしか空いていない〕。窓からは、女性指導員と保安官が町の人たちにビラを配っているのが見える。2人の斜め後ろに座っていた黒人の子は、目ざとくそれに気付く。その時、2人よりは年上の黒人の女の子2人が、通路を歩いてきて、「あたしたちの席で何してるのさ」「おどき」と命令する。2人には、どうしたらいいか分からない(3枚目の写真)。
  

それを助けてくれたのは、斜め後ろの黒人の子だった。「いいから、座ってろ」。「そこは、あたしたちの席だよ。お節介はおやめ」。「ここに、座らせてやれよ。かたいこと言わずにさ。なんでぶつくさ言うんだ」。「じゃあ、代わりに誰かを追い出さないと。座ることさえできれば、いいんだからね」。そこで、2人の前の席に座っていた小さな子が追い出される。ただ、それだと、乗車定員を2名オーバーする。この団体は、2台のバスで来ていたので、運良く率先して前のバスに移ってくれた子がいて万事解決〔前のバスに空き席はあったのだろうか? 原作でも、その点は曖昧にされている〕。かくしてバスは、町を出発〔原作では、バスがスピードを上げると、さっきの黒人の少年カルヴィンが、ハウイをつつき、にこにこしながら。「おまえの女?」と尋ねる。ハウイは「そう」と答える。「いいじゃん」/この会話は ある意味重要で、後で、カルヴィンが2人のことを「ボニーとクライド」(『俺たちに明日はない』でも描かれた伝説の強盗カップル)と呼ぶ理由の1つになっている〕。次のシーンでは、サマーキャンプの代表者の部屋を訪れた少女の母が、責任者から不十分な説明と〔<ヤギ>のことは一切言わない〕、責任逃れの発言に呆れ返る。バスの中で、ハウイは、盗みの貸借記録を付けるのに余念がない(1枚目の写真)。そんなハウイに、少女は、「私、スペースキャンプ〔U.S.ロケット&スペース財団が主催する青少年向けの体験学習〕に行きたかった」と打ち明ける。「宇宙飛行士になりたいの?」(2枚目の写真)。「そうよ」。この会話では、2人の間に何の感情もない〔原作では、こんなシーンもある。「少女は少年の肩にもたれて、うとうととねむりに落ちかけている。少年は、そっと首をかしげて少女の髪のにおいをかいだ。湖のにおい。ぴりっとして芳しいにおい、それからその下の、なにやら秘密めいたにおい。少女が「なにしてるの?」と訊くと、ハウイは「きみのにおい、かいでる」と答える。「やだ、いやらしい」。しかし、少女は、うっとりとそういっただけで、頭をどけはしなかった/このような情景の積み重ねが、2人の仲を親密にしていくのだが、映画では、その点が疎(おろそ)かにされている〕。バスは、目的地の公営キャンプに着く。バスから降りた2人には、バスを出たところで緑色のキャンプ着が渡される。しかし、2人にはキャンプに参加する気などさらさらない。そこで、こっそりと抜け出して森の中に逃げ込む。しかし、カルヴィンは、それもちゃんとお見通しで先回りして、「どこ行く気だ?」とストップをかける。そこに、さっき席を譲ったティワンダもやってきて、「カールソンさん〔キャンプの指導員〕に話さないとね」と言い出す。「お願いやめて」。「どこに行く気なの?」。「キャンプに戻るの」〔嘘〕。ティワンダは、夜の森は怖くて、狼や熊もいると脅す。カルヴィンは、「今夜だけ、一緒に泊まったらどうだ。誰にも見つからないさ」と言ってくれる(3枚目の写真)〔原作では、カルヴィンに、「なあ、おまえら、なんでサツ避けてんだ?」と訊かれ、ハウイは、「別荘に入って、物をとった」と白状する/これもボニーとクライドの命名の一因〕。4人がキャンプに戻ろうとした時、問題児のブッチという年長の男の子に見つかり、「見たことのない顔だ」と言われたので、カルヴィンがとっさに、「いつも一緒にいたじゃないか、ボニーと弟のクライドじゃないか」と取り成す。
  

夕食の時間になって、全員が食堂に集合する。男女別々のバンガローに行かされていたので、2人には待ち焦がれた再会のはずだが、その時の会話は、「やっぱり、ここで夜を過ごした方がいい。朝になったら出発しよう。暗くなったら、道が分からなくなる」(1枚目の写真)という寂しいもの。しかも、このシーンの前に、少女(ボニー)はバンガローで「6つしかベッドがない建物で7人寝るということがOKされたので、会話自体が宙に浮いている。そして、映画ではすぐに、夕食後のダンスのシーンに移行するのだが、原作では、こんなどうでもいい会話などなく、ここに重要な場面が入っている〔それは、ハウイが、みんなの前で、昔、ギリシャの神が住んでいたと言われる古い洞窟に入っていった時の体験談を話す場面。そこでの「ちょっと怖い」思い出を語った後で、彼は、「ギリシャの神様に会ったかもしれない」と言う。誰も味わったことのない経験だ。この話によって、ハウイには一種の神秘性が付与される。しかし、映画では、ハウイは孤児なので、この逸話はカットされてしまった〕。ダンス会場では、最初、2人は「壁の花」だったが、バスに乗った時にティワンダと一緒だったリディアがハウイに興味を持って、一緒に踊ろうと誘う(2枚目の写真)〔原作では、洞窟の話に魅せられて誘う〕。途中で音楽がしっとりとムードのある曲に変わると、リディアはハウイにぴったりと体を押し付け、手で頭を抱き、ハウイをドギマギさせる(3枚目の写真)〔原作では、そうなる前にリディアが別れる〕
  

一方、不良っぽいブッチは、変にボニーに興味を持ち、絡み始める(1枚目の写真)。それに気付いたハウイは、リディアから離れると(2枚目の写真)、真っ直ぐブッチの前に行き、「彼女には、男の中の男がついてる」と警告する。年上のブッチはハウイのことなどバカにして相手にしない。「ぐちゃぐちゃうるせえんだよ。お前に話してるんじゃねぇ。このレディに話してんだ。この青二才のくず野郎」。そう言うと、ボニーを連れ去ろうとする。ハウイは、ブッチの膝を後ろから思い切り蹴る(3枚目の写真、矢印はハウイの足)。ブッチは痛くて立ち上がれない。心配したカールソンが飛んできて、「どうした?」と訊くが、ブッチは「転んじまって」としか答えない。
  

映画では、少女(ボニー)がバンガローに戻った後のシーンが先にあるが、原作では逆〔ハウイは、後ろから蹴るという卑怯な行為をしたことに対し、バンガローに行ったらリンチに会うのではと心配する。しかし、カルヴィンは、他の連中に、ハウイはアウトローだと言い、「アウトローのルール」を教える。「ほんとにヤバイと思ったら、フェアになんか戦うな」「ルールどおりにやってたら傷だらけになってくたばっちまうこともある。で、はずれたやつがアウトローになる」〕。映画では、下のベッドに寝たハウイが、上のベッドのカルヴィンに腕の火傷のことを訊き、それが、酔っ払った父にタバコを押し付けられたものだと教えられるシーンがメインになっている(1枚目の写真)〔原作では、わずか3行で述べられているだけ。その代わりに、朝早く起きたハウイは、少女のいるバンガローの前まで行き、以前少女から聞いた科学産業博物館の話をじっと考える〕。映画では、朝食の時間に少女は3つの話をする。1つは、昨夜助けてもらったことに対するお礼。2つ目は、母に対する電話の話。「ママは、あんたも一緒に連れてくわ」。「君のママがそんなことしたがるなんて思わないな」。「連れてくわ。絶対よ」。その後に来るのが、原作ではもっとずっと前に少女が話す、シカゴの科学産業博物館の中の奇妙な展示の話題。そこには、人体を薄切りにした展示があって、人体内部のどこでもはっきり見ることができると自慢げに話す。「それって、本物の人間なの?」(2枚目の写真)。「そうよ。1人の男性と1人の女性を、全部薄切りにしたの」。「その体、どこで見つけたの? つまり、そんなことされたい人なんていないだろ?」。「さあ、そんなこと考えたことなかった」。「絶対、家族のいない人たちだ」。3枚目の写真は、ネット上で見つけたスライスされた人体〔原作では、ハウイ(作者)の考え方が書いてある。「たとえその男と女がもう死んでいて、だれもその人たちのことを気にとめなかったとしても、人間を薄切りにしてガラスのケースに納める人間がいるなんて、信じられない」/これは、明らかに、そうした展示を平気でしている科学産業博物館の非人間性に対する批判。私は見たわけではないが、もし、本物の人間のスライスだとしたら、「やってはいけないこと」だと確信する〕
  

少女は、食事中のバンガロー仲間をみつけて、ハウイに、「写真撮って」と要求する。さっそく、全員を並ばせて撮ろうとするが(1枚目の写真)〔定員6名+ボニーなので、1人欠けている〕、ハウイは「ちょっと待ってて」と言い、1人寂しげに座っているブッチに声をかけに行く(2枚目の写真、矢印はブッチ)。3枚目の写真は、映画のラストで紹介される「逃避行中に撮影した写真」の中の1枚。下には、「ボニーと友だち」と書かれている。少女(ボニー)の右にはブッチも入れてある〔原作では、写真を撮る行為自体がないので、こんなエピソードもない/ハウイの優しさを示しているように見えてしまうが、よく考えれば、少女にとってみれば、隣に「無理にキスした不良」が来たことが快適だったとは思えないし、彼を含めて「友だち」と書いたのも間違っている〕
  

モーテルの前の茂みの中で、2人が様子を窺っている。少女:「うまくいきっこないわ」。ハウイ:「森の中で寝たくないだろ。やらないと」(1枚目の写真)。朝なので、部屋を出て行く客もいれば、掃除係りのおばさんも出入りしている。「モーテルだから、チェックインの時、前払いする。部屋を引き払う時、部屋にキーを置いてくんだ」。「でも、出てく時にドアを閉めちゃうわ」。「次の機会を狙おう。やってみるよ」。「待って、私がやる。無邪気そうに見えるでしょ」。こうして少女は、初めて積極的な行動に出る〔原作では、「むりにきまってる」と言うのがハウイで、「森で野宿なんかしたくないでしょ」と言うのが少女。チェックインのことを指摘するのも少女。少女の方がいつも現実派。だから、彼女が出かけるのは当然〕。映画では、少女はまず2階に行き、掃除のおばさんの仕事道具からゴミ袋を拝借する〔原作では触れていない〕。そして、その袋を持って、1階で出発の準備をしている一家の父親に近づいていく。そして、如何にも、モーテルのオーナーの子が手伝ってでもいるような感じで声をかけ、部屋の中に入って行き、ゴミ箱の中身をゴミ袋に空ける(2枚目の写真、矢印)。さらに、部屋の中にキーがなかったので、車に乗って発とうとしているところに駆けつけ、キーを忘れてないかと訊き、謝罪とともにキーを受けとる〔原作では、やり手の少女なので何の不思議もないが、映画では、急にオクテから変身するので違和感がある〕。少女は、無事、キーを持って部屋に入り、それを見たハウイは急いで部屋に向かう。少女は、ハウイを中に入れ(3枚目の写真)、ドアに「Don't Disturb」の札をかけさせる。
  

ただし、これで済んだわけではない。掃除婦には、どの部屋がチェックアウトするかの連絡が入っているはずなので、少女は、さっき聞いた名前でフロントに電話をかける。奥さんになりきり、車が故障したのでガレージに預ける必要があり、もう1泊したいが部屋はこのまま使えるかと尋ね、OKをとる〔料金は同じクレジットカードでと言って了承されるが、増額になるので、もう一度カードでの支払い手続きが必要となるはず→明朝、チェックアウトの前にフロントに寄って下さいと言われたのであろう〕。少女は電話を置くと、「すごいわ、やった!」と大喜びでハウイに飛びつき、ベッドに押し倒して くすぐる。「やめろよ。何て言われたんだ?」(1枚目の写真)。「『構いませんよ、ヘンドリクス夫人。そのまま明日まで泊まりください』」。「ホントにそう言ったの?」。「そうよ、私って 大したもんでしょ」。ハウイは、それを認めるまでくすぐられる。一段と親密になった感じ。ハウイの横に寝転んだ少女は、「あいつら、なぜ、あんたを選んだんだか分かる?」と尋ねる。「選んだ?」。「そうよ、ブライスたち」。「僕は、格好の標的だった。のけ者だったから」(2枚目の写真)。ハウイは、逆に、「ブライスが、全部の女の子を分類してたの知ってる? とびっきりの美人〔super fine foxes〕、美人、フツー〔middle-of-the-roads〕、ブス〔dog〕、とびっきりのブスって?」。「私は?」。「『ブス』だって。だけど、あいつ君をちゃんと見てなかったんだ。ちゃんと見てたら、そんなこと言うはずないよ」〔原作では、女王、姫、ブスイヌ、超ブスイヌの4段階で、少女は最下位だった〕。この後、気分を害した少女は、すぐにシャワーを浴びに行く。そして、少女が終わると、次がハウイ(3枚目の写真)。2人は、仲良くベッドに横になる〔この部分は、原作とかなり違っている。映画では、2人はシャワーを浴びてベッドに寝ころがる。しかし、タオルはすべて汚れているし、シーツだって汚れている。そこで、部屋を使う前に、掃除婦に部屋をクリーニングさせる。そのためには、一時部屋を出ないといけない。ホテルに戻ると、シーツもタオルも新しくなっていた。2人はシャワーを浴びるが、映画と違いハウイが先。ハウイは少し風邪気味なので、シャワーを浴びた少女は服を着たままハウイのベッドに入り込み温めてくれる。そこで2人はいろいろな話をする〕
  

2人は、原作と違い、別々のベッドに入り、メガネを最初にかけた時の体験を話す。それが一段落すると、少女は、「もっと前に訊くべきだったけど、しなかった」と言い出す。「何を?」。「あんたの名前、知らないわ」。「バカげた名なんだ… ハウイ」〔原作では、「ほんとはハワードなんだけど、みんなハウイって呼ぶんだ」〕。「私、グレースよ」〔原作ではローラ〕。その後、グレースは、両親は昔、ヒッピーで、パパはまだそのまま、だから ほとんど会わないと話す。ハウイは、改めて、「よろしく」と手を差し出す。グレースも「よろしく、ハウイ」と言って手を握り合う(1・2枚目の写真)。ちょうど、2人の前のTVでは、男女のキスシーンをやっている。それを見たハウイの顔には緊張と期待が。しかし、グレースがお休みといってスタンドを消してしまうと、そこには落胆だけが残る(3枚目の写真)〔映画を観ていて疑問符がつくのは、部屋に入り込んだのは朝。すぐにシャワーを浴び、なのに、いつの間にか夜になっている〕〔原作では、先に引用したように、清掃が終わってから一度昼寝をし、夕方になると、お腹が空いたのでモーテルのレストランに行く。そして、キーを見せれば何でも食べられると分かり、夕食を済ます。問題はその後に起きた。掃除婦が怪しいと思って2人を見張っていたのだ。理由は、①部屋を掃除した時、荷物がなにもなかった、②2人が夕食に出て行った後に部屋を覗いたら、少年と少女が同じベッドで一緒に寝ていた(もう1つのベッドはまっさらだった)の2点。ローラは、ボーイフレンドは誰かと訊かれ、うっかり弟と言ってしまう。しかし、宿帳にあったのは両親と少女の3人家族。この緊急事態を解決するため、トイレから出てきて事態をハラハラしながら見ていたハウイは、火災報知機を鳴らし、混乱に乗じてグレースを救い出す〕
  

2人は、グレースと母と会うことになっているオールバーグ〔架空の町〕まで10マイルのところを歩いている(1枚目の写真)。地名表示の下の「107」は、ノースカロライナ州の2級道路107号線のこと〔107号線はグレンビル湖(千葉の印旛沼と同程度)の横を通っている。ただし、島はあるが、対岸までは200メートルくらい/映画の撮影はジョージア州のチャトゥージ湖(北海道の網走湖より少し小さい)で行われたが、こちらも岸から1マイルも離れた島はない/原作では州も湖も不明〕。グレース:「10マイルも!」〔16キロ〕。「ずっと下りだといいんだけど」。その時、車の音が聞こえる。グレースは、最初の頃、ヒッチハイクは危険だと言っていたが、疲れてくると、そうも言ってはいられない。そこで手を上げる。しかし、停まった車を運転していたのは、怪しい感じの男。男は、「姿も、臭いも、まともじゃないかもしれんが、心配するな」と言って保安官代理のバッジを見せる。そう言われれば乗車は拒否できない(2枚目の写真)。後部座席は、囚人護送車並みに、全部の窓に金網がついている。そして、ドアの把手は外されている。逃げ出すことのできない車両だ。男は、自分でタバコを1本くわえると、「吸うか?」と箱を後ろに見せる(3枚目の写真、矢印)。12歳の子にそんなことを訊くだけでも異常だ。男は、名乗った後、ハウイに名前を訊き、「臭くてすまんな。ヤギのせいだ。昨日乗せてな。だから臭ってる」と言いながら、オールバーグへの道から逸れる。「道が違うよ」。「ちょっと家に寄って取ってくるもんがある」。雲行きが怪しくなる。「おまえら、キャンプから逃げただろ? こんなとこで何してる? どうやってバーンズヴィルまで行った〔撮影が行われたジョージア州にある町〕?」。ハウイは、「車でだよ。今、戻るとこさ。電話でそう言ったから、戻る途中だってこと知ってるし、待っててくれる」と変な所に連れて行かれないよう嘘の予防線を張る。「2人で何してた? じゃれ合ってたのか? ディープキスとか?」。グレース:「関係ないでしょ」。この言葉に男は怒る。「今、何て言った? 関係あるに決まってるじゃないか!」。ハウイ:「ここで停めてよ! 降して!」。「お前たち2人は逮捕されたも同然だ」。
  

車は男の家に着く。「お前らは、スターライト・ホテルに押し入った。重大な犯罪だぞ。お前と、そのアバズレは、これから大変なことになるから覚悟しとけよ。俺は、電話を入れてくる」。そう言うと、男は、銃を持って車を降り、電話をかけに行く。グレース:「私たちどうなっちゃうの? 刑務所に入れる気かしら? あいつ変よ。逃げましょ」。「銃を持ってる」。「運転できる?」。グレースは、運転席まで身を乗り出して、物入れの中に置いていったキーを奪う。そして、運転席に座ったハウイがハンドルを握る。子供なので、足はペダルに届かない(1枚目の写真)。そこで、グレースがアクセルを手で押す。しかし、ギアはバックに入っていた。車は勢い良くバックして空のドラム缶に突っ込む。今度は前進に変え、再びグレースが力いっぱいアクセルを手で押す(2枚目の写真)。急発進した車は、途中で 男の左足を轢いて 走り去る(3枚目の写真、軽傷)。しかし、ハウイが入った道は、オールバーグへの州道に戻る道ではなく、行き止まりの道だった。男は、大声で、「止まれ! 行き止まりだ!」と叫ぶ。幸い、その声はハウイにも聞こえた。車は、間一髪、車止めにぶつかる寸前で停車する〔グレースが必死にブレーキを押した〕〔この行き止まりのシーンは映画だけのもの。原作では、ただ逃げるだけ〕
  

男は、片足びっこの状態で執拗に追ってくる。ハウイは、車止めの柵を乗り越え、グレースが越えるのを手伝う。男:「そっちに行っちゃいかん!」。その声は正しかった、2人の行く手にあったのは巨大な岩。その先は断崖になっている(1枚目の写真)。男の声が近くなる。「飛び降りよう。捕まっちゃう。撃たれるかも」。「撃たないわよ!」。「足を轢いたんだぞ!」。「泳げないって言ったでしょ!」。「生きてたら、教えてやるよ!」。2人は、はるか下の湖に向かって飛び降りる(2枚目の写真。スタントも大変)。2人は無事着水できた。あとは、ハウイがグレースを引っ張って泳ぐ。2人は滝の前の小さな岩まで何とか辿り着き、寄り添って休む(3枚目の写真)。オールバーグで待っていたグレースの母の所には、郡の少年補導警察官がやってきて、①対応した保安官代理の行動に問題があった、②2人は崖から飛び降りた、と申し訳なげに報告し、ホテルで待機しているよう勧める。
  

2人は 道端でようやく公衆電話を見つける。グレースはすぐに母の会社に電話する。電話をかけ終わって戻って来たグレースに、ハウイは「ママはいた?」と訊く。「ううん。ママは、オールバーグのホテルにいるって。秘書の人がそう言ってた」。「モテル? ここの?」。「おとといから、そこにいたの。キャンプから、私たちが戻らないって電話があったんだって。ママは、私のことすごく心配してたそうよ。警察も私たちを捜してる。ママに殺されちゃう」(1枚目の写真)。ハウイは、「僕が守ってあげる」と言い、グレースの眼鏡を服で拭ってきれいにしてやる。落ち着きを取り戻したグレースは、ホテルにいる母に電話をかけることにする。電話代がないので、すぐ横で蜂蜜を売っている老人に借用書を渡してお金を借りる。「あんたも一緒に泊めて欲しいってママに頼むわ。もし断られたら、その時は、一緒に逃げましょ」。「いいよ」。グレースは、母に電話をかける。母は心配の頂点に達していたので、娘からの電話に100%喜ぶ。そして、娘が保安官代理のことを話すと、問題は何もないので、「怖がらなくていいのよ」と言う。それに対し、グレースは、「私 もう怖くない、今はタフになったの。ママ言ったでしょ。ホントにタフなのよ」と誇らしげに言う。そして、「ママ、私たち一緒にいたいの。ハウイを家に連れてってくれる?」と訊く。「全力を尽くすわ。何なら盗んでもいい」。「彼の両親は、きっとOKしてくれるわ」。「グレース、ハウイの両親は そばにいないの」。「知ってるわ、ギリシャでしょ」。「そうじゃないの。ハウイは、サマーキャンプを体験させる学習計画で来ていたの」。「それ、どういうこと?」。「ハウイは、里親の家で暮らしていて、両親はいないのよ」。それを聞いたグレースは、思わずハウイを振り替える(2枚目の写真)。その視線に何かを感じ取ったのか、ハウイも見つめ返す(3枚目の写真)〔原作では、ハウイには両親がいるので、最後の部分はない〕
  

2人は、公衆電話から少し山に入った 見晴らしの良い場所に来ている(1枚目の写真)。グレースは、「ママは、あんたも一緒に家に連れてくって約束したわ」と言うが、ハウイは、「本気じゃないよ」と答える。「なんで?」。「できないからさ。違法行為だ」。「何が?」。「僕たち」。ハウイは、せっかく仲のよくなったグレースと別れなくてはならなくなり、自暴自棄に走っている。だから、グレースに、「もう戻らないと。他に行く場所なんてないのよ!」と言われると、「戻るもんか! イヤだ!」と反撥する(2枚目の写真)。「最初から、一緒に来てくれってなんて頼んでない!」。「私たち、いつも一緒にいるんだと思ってた」。「違う!」。「どういうこと?!」。「君なんか必要ない! いて欲しくない! 行っちまえ!」。この捨て鉢になった言葉に怒ったグレースは、ハウイに飛びかかる。そして、馬乗りになって顔を叩きながら、「取り消しなさいよ!」と何度もくり返す〔グレースが如何にハウイが好きかがよく分かる〕。眼鏡がぶっ飛んだハウイは、「やめて、取り消すよ」と言うと(3枚目の写真)…
  

今度は、グレースに馬乗りになって両手を押える。「そんなつもりじゃなかった。本気じゃない。君だって、知ってただろ?」(1枚目の写真)。グレースは、「ええ… でも、あんなひどいこと言うなんて」と泣く。それを聞いたハウイは、グレースから降りると、壊れた眼鏡を受け取る。そして、これまで言おうとしてどうしても言えなかったことを話すラストチャンスだと、腹を決める。「あのね、君に言いたかったことがあるんだ。ずっと、こんなこと考えてた… 君と僕、2人だけで、森で一緒に暮らせたらなぁって、インディアンみたいにさ。必要なものは、野原とか小屋から取ってくる。そして、二度と、誰も、僕たちを邪魔しない… この数日間、何度も考えてた。そのことを言いたかったんだ。僕のこと、どうかしてると思うだろ?」(2枚目の写真)。この愛の告白に、グレースは、「どうかしてる。でも、そうやって考えるのって素敵よね」と答える。さらに、「私たちのどっちかが病気とかになったらどうするの?」と尋ねる。「さあ、考えたこともなかった」。「あんたなら、何とかするわよね。いつもそうだったから」。「そろそろ降りてかないと、ママが心配してるよ」。「待たせとけばいいわ」。そう言うと、グレースはハウイに抱きつき、心をこめて「ありがとう」と感謝する(3枚目の写真、ハウイの目に涙)。「ホントにありがとう」。グレースは泣いている…
  

ハウイは、2人の姿を記念にカメラに収める(1枚目の写真)。2枚目の写真は、映画のラストで紹介される「逃避行中に撮影した写真」の中の最後の1枚。下には、「<ヤギ>たち」と書かれている。2人が来た道を戻って行くと、反対側からグレースの母が姿を見せた。グレースを見て走り出した母を見て、彼女は、ハウイに悪いなと思いながらも母に向かって駆けて行く(3枚目の写真)…
  

そんなグレースの姿を見送るハウイの顔には、寂しさと諦めが…(1枚目の写真)。そしてカメラは引いていく(2枚目の写真)。映画は、それから1年と少し後に飛ぶ。グレースが家から出て郵便受けを見に行くと、ハウイからの封筒が届いている。彼女は、急いで部屋に戻り、封筒を開ける(3枚目の写真、矢印)。そこから、グレースの独白が始まる。「秋には、ハウイは、コネチカットの家族に養子に迎えられた。私たちは、連絡を絶やさなかった。次の夏、ママは私たちを博物館に連れて行き、そこで人体の薄切り展示を見た。NASAではロケットも見た」。そして、封筒の中の「あの時撮った写真」を見る(これまで、先行して紹介してきたもの)。封筒には、貸借記録のメモ帳も入っていた。1ページ目には、几帳面な字で、「山小屋/湖畔道路2022番地/オールバーグ、ノースカロライナ/- スープ1缶/- パンツ/- トレーナー/- Tシャツ/- カメラ/7ドル」と書かれている。メモ帳の裏には、「トール・パイン〔キャンプのあった場所〕にはお金を返しに行けそうもありません。僕の分の半額を同封します」「薄切りにされた人たちが誰だか分かりましたか? 僕、彼らのことを よく考えます。ハウイ」「追伸 ブライスは間違ってました。君は、『とびっきりの美人』でした」。それを読んで、グレースは幸せそうに微笑む〔原作には、事後談は何も書かれていない。この先、2人はどうなるのだろうか? 時々会い続けて、最後には結ばれるのだろうか?〕
  

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